介護現場の生産性向上リーダーに必要な5つの心構え

はじめに

介護事業所では、人手不足やケアの質の向上など様々な課題を抱えています。このような状況の中で、業務の効率化や生産性向上は避けて通れない重要なテーマとなっています。しかし、生産性向上の取り組みを成功させるには、単に新しいシステムを導入するだけでは不十分です。

プロジェクトを成功に導くためには、リーダーシップが鍵を握ります。本記事では、介護現場で生産性向上を推進するリーダーに必要な5つの心構えをご紹介します。これらの心構えを実践することで、チームの協力を得ながら、持続可能な改善活動を実現できるでしょう。

目次

  1. 課題感を大切にする
  2. 嫌われる勇気を持つ
  3. 仲間を作る
  4. 無知の窒息に耐える
  5. マージナルゲインを求める

1. 課題感を大切にする

生産性向上活動の原動力となるのは、現状に対する「違和感」や「課題感」です。リーダーがプロジェクトを力強く推進するためには、この感情を大切にすることが重要です。

なぜ課題感が重要なのか

  • 推進力の源泉になる
  • モチベーションを維持する助けになる
  • 困難な場面での支えになる

「今の運用のままでいいのか」「この業務はもっと効率化できないだろうか」といった疑問や違和感が、改善活動の出発点となります。この違和感を見逃さず、意識的に蓄えておくことで、プロジェクト全体の推進力に変えることができます。

介護現場では、日々の業務に追われて「違和感」を感じても流してしまいがちです。しかし、その小さな違和感こそが、大きな改善のきっかけになるのです。日々の業務の中で感じた違和感をメモに残しておく習慣をつけましょう。

2. 嫌われる勇気を持つ

生産性向上活動では、全員が喜ぶ変化というものは基本的に存在しません。なぜなら、改善とは「現状の否定」から始まるものだからです。

反発は自然なもの

  • 改善は現状の否定から始まる
  • 現状の運用に愛着がある人からの反発は避けられない
  • 反発があることは自然であり、異常ではない

現状の運用方法に対して「もっと良くできるのではないか」と提案することは、ポジティブな意図であっても、これまでの方法を築いてきた人々にとっては否定と受け取られることもあります。特に介護現場では、長年かけて確立された業務手順や慣習があり、変化に対する抵抗が強いことがあります。

そのため、リーダーは「嫌われる勇気」を持つことが必要です。全員から支持されることを期待せず、反発があることを前提として受け入れましょう。同時に、様々な疑問や意見をしっかりと受け止め、取り入れるべき意見は柔軟に取り入れていくことも重要です。

3. 仲間を作る

生産性向上活動は一人では進めることが困難です。特に反発が予想される状況では、共感し合える仲間の存在が不可欠です。

仲間を作ることのメリット

  • 心の支えになる
  • 多様な視点が得られる
  • 自分では思いつかなかった改善策が見つかる

介護現場では、現場スタッフ、ICT担当者、管理職など、様々な立場の人が働いています。それぞれの視点から意見を得ることで、問題に対する理解が深まり、より効果的な改善策を見出すことができます。

例えば、介護記録のデジタル化を進める場合、現場スタッフからは使いやすさの視点、ICT担当者からは技術的な実現可能性、管理職からは経営的な視点など、多角的な意見を集めることで、バランスの取れた改善が可能になります。

一人では難しいと感じる改善活動も、共感する仲間と一緒なら乗り越えられるものです。プロジェクトの早い段階から、様々な立場の人を巻き込んでチームを作りましょう。

4. 無知の窒息に耐える

改善活動を進める上で、安易に「分かったつもり」になることは危険です。真の課題解決のためには、「無知の窒息」に耐えることが必要です。

無知の窒息とは

  • 自分がまだ全部を理解していないという不安な状態
  • 早く「分かった」状態に到達したいという心理的圧力
  • 深い調査と理解が必要な状態

人間は本能的に、分からない状態に不安を感じ、早く理解した状態に到達したいと考えます。しかし、複雑な業務改善においては、表面的な理解だけでは不十分です。

例えば、介護記録の作成に時間がかかるという課題に対して、単純に「タブレットを導入すれば解決する」と考えるのは、安易な「分かったつもり」かもしれません。実際には、記録の内容、スタッフのICTスキル、情報共有の流れなど、様々な要素が絡み合っている可能性があります。

無知の窒息に耐え、継続的に調査を続けることで、課題の全体像が見えてきます。様々な立場の人の意見を繰り返し聞き、背景を探りながら、複雑さを理解した上で改善策を考えましょう。このプロセスを経て考えた改善策は、自信を持って実行できるものになります。

5. マージナルゲインを求める

最後に重要な心構えは、「マージナルゲイン」(限界利得)を求めることです。これは、小さな1%の改善を積み重ねていく姿勢を意味します。

マージナルゲインの力

  • 小さな改善の積み重ねが大きな成果につながる
  • 崇高なビジョンより具体的な行動が重要
  • 継続することで大きな差が生まれる

介護現場でも、劇的な変革を一度に起こそうとするよりも、日々の小さな改善を積み重ねる方が、結果的に大きな成果につながります。例えば、記録時間を5分短縮する、申し送りのムダを減らす、物品の配置を工夫するなど、小さな改善でも積み重なれば大きな効果を生みます。

F1レースのチームや世界トップレベルの組織も、崇高なビジョンだけでなく、小さな改善の積み重ねによって成果を上げています。優れた施設も、最初は小さな改善から始め、それを積み重ねてきたのです。

1%の改善を100回繰り返せば、元の2.7倍の成果が得られるという複利の効果もあります。小さな一歩から始めて、継続の力を信じることが重要です。

まとめ

介護現場の生産性向上を成功させるためには、リーダーの心構えが重要です。5つの心構えをまとめると:

  1. 課題感を大切にする - 改善活動の原動力となる違和感を大切にする
  2. 嫌われる勇気を持つ - 反発があることを自然なものとして受け入れる
  3. 仲間を作る - 多様な視点を取り入れ、支え合いながら進める
  4. 無知の窒息に耐える - 安易な理解を避け、深く調査を続ける
  5. マージナルゲインを求める - 小さな改善を積み重ねることで大きな成果を生み出す

これらの心構えを実践することで、介護現場の生産性向上活動がより効果的に、そして持続可能なものになるでしょう。リーダーの一歩が、より良い未来を作るのです。