【実践編】介護現場で今すぐ試せる!情報共有の改善方法を手順で解説
はじめに
介護現場での「情報共有がうまくいかない」という課題は、多くの事業所が抱える悩みの一つです。申し送りノートの記載漏れ、業務日誌の重複記入、緊急連絡の遅延など、情報共有の問題は様々な形で現場の生産性を低下させています。
前回の記事では、情報共有の改善に関する基本的な考え方や課題の種類、解決策の概要などを理論的な視点からお伝えしました。本記事では、一歩進んで「実際に何をどうすればよいのか」という実践的な手順にフォーカスし、現場ですぐに活用できる具体的な改善方法を解説します。実際の帳表サンプルも交えながら、情報共有の改善活動を成功させるためのステップを具体的に見ていきましょう。
これらの方法を実践することで、スタッフの負担軽減、ケアの質向上、そして何より利用者様へのサービス向上につながります。
目次
1. 情報共有の課題を可視化する方法
帳表・情報の一覧化
情報共有の改善の第一歩は、現状把握です。「情報共有がうまくいかない」と感じていても、Aさんが考える情報とBさんが考える情報が一致していないことがよくあります。まずは以下のステップで情報を可視化しましょう。
- 施設内で使用しているすべての帳表と介護ソフトの情報を一覧化する
- 申し送りノート、業務日誌、バイタル記録、食事摂取記録など
- それぞれの帳表について以下の項目を整理する:
- 誰が作成しているか
- どのタイミングで作成されるか
- 誰が閲覧しているか
- 記録の目的は何か
以下は帳表一覧表のサンプルの一部です:
帳表名 | 作成者 | 作成タイミング | 閲覧者 | 記録目的 | 情報共有上の課題 |
---|---|---|---|---|---|
申し送りノート | 各シフト担当者 | シフト終了時 | 次シフト担当者 | シフト間の重要事項伝達 | ・記載漏れがある ・読みにくい ・人によって書き方が異なる |
業務日誌 | リーダー | 日勤終了時 | 管理者、翌日スタッフ | 日々の業務記録 | ・他帳表と内容が重複している |
バイタル記録 | 介護スタッフ | 朝・昼・夕 | 全スタッフ、看護師 | 健康状態の把握 | ・記入忘れがある ・緊急時の参照がしづらい |
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より詳細に分析するためには、各帳表の中の具体的な情報項目まで細分化することも効果的です。例えば「申し送りノート」の中でも、「利用者状態」「薬の変更」「家族からの連絡」など、項目ごとに課題を洗い出すことができます。
カードブレインストーミング法による課題抽出
一覧化した帳表に対する課題を抽出するために、カードブレインストーミング法が効果的です。この方法のポイントは:
- 個別に課題を書き出す
- カードや付箋に1枚につき1つの課題を書き出す
- 「〇〇の帳表の△△という部分が××のために使いづらい」という形で具体的に記載
- 幅広く意見を集める
- 発言力の強い人の意見だけでなく、全員の意見を平等に扱える
- アンケート形式にして会議参加者以外からも意見を集められる
- グルーピングして傾向を把握する
- 似た課題をまとめて分類する
- どの帳表・どの種類の課題が多いのかを可視化する
課題は多く出れば出るほど良いので、できるだけ多くのスタッフから意見を集めることをおすすめします。現場で実際に記録を作成・確認している人の声が最も重要です。
2. 情報共有の課題を整理する5つの視点
抽出した課題は、以下の5つの視点で整理すると解決策が見えやすくなります:
正確性の課題
- 書き方が曖昧で解釈に差が出る
- 事実ではなく書いた人の予想や解釈が混ざっている
- 重要情報の記載漏れがある
具体例: 「夜間、Aさんが何度もトイレに行かれていた様子」という記載では、実際に何回トイレに行ったのか、どのような状態だったのかが不明確。
即時性の課題
- リアルタイムで伝えるべき情報が遅れて共有される
- 緊急性の高い情報と低い情報の区別がつかない
- 即時性を求めるあまり、記録とは別に電話などの手段も併用している
具体例: バイタルの異常値が記録されても、翌日の申し送りまで共有されないため、早期対応の機会を逃している。
効率性の課題
- 同じ情報を複数の帳表に重複して記録している
- 無駄な確認作業が発生している
- 伝達漏れが生じている
具体例: 利用者の食事摂取量を食事記録、介護記録、申し送りノートの3箇所に記入している。
保管・検索性の課題
- 過去の情報を探すのに時間がかかる
- 重要な情報が複数の場所に点在している
- 必要な時に必要な情報にアクセスできない
具体例: 「1週間前に家族から何か連絡があったはずだが、どの記録に書いてあるか分からない」という状況が発生。
コンプライアンスの課題
- 個人情報の取り扱いに問題がある
- 私物のメモに個人情報を転記している
- 記録の保管方法に問題がある
具体例: スタッフが利用者情報をメモ帳に書き写して持ち歩いている。
これらの視点を使って課題を整理することで、どのような対策が必要なのかが明確になります。
3. 効果的な課題解決のポイント
現状の運用と背景を理解する
課題解決において最も重要なのは、現状の運用とその背景を正確に理解することです。表面的な課題だけを見て改善策を考えると、思わぬ副作用が生じる可能性があります。
確認すべきポイント:
- その運用は誰が、いつ、何のために行っているのか
- その情報共有は本来の目的を満たしているのか
- なぜその運用が始まったのか(法的要件、過去のヒヤリハット対応など)
例えば、「重複記録が多い」という課題に対して安易に帳表を減らすと、その帳表が持つ別の重要な役割が失われる可能性があります。背景を理解せずに改善を進めると、現場が混乱する恐れがあります。
小さく始めて徐々に広げる
改善活動を成功させるコツは、小さな範囲から始めることです:
- 小さく始める
- 1つのユニットや部署だけで試行する
- 1つの帳表の特定の項目だけを変更する
- 効果検証をしながら横展開する
- うまくいった改善策を他の部署や帳表にも広げる
- 小さな成功体験を積み重ねる
大きな変更を一度に行うと失敗した際のリスクも大きくなります。小さく始めることで、仮に失敗しても「小さな失敗だったから再チャレンジしよう」という前向きな姿勢を維持できます。
フィードバックを活かした調整
完璧な改善策は最初から生まれません。現場の声を聞きながら継続的に調整していくことが重要です:
- 現場からのフィードバックを積極的に集める
- 新しい運用や帳表について定期的に意見を聞く
- 使いづらい点、改善点を遠慮なく言える環境を作る
- PDCAサイクルを回す
- Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)のサイクルを回す
- 小さな調整を重ねて理想の形に近づける
最初から完璧を求めるのではなく、徐々にブラッシュアップしていくという心構えが大切です。
まとめ
介護現場の情報共有を改善するためには、以下のステップを実践しましょう:
- 課題の可視化
- 帳表・情報の一覧化
- カードブレインストーミング法による課題抽出
- 課題のグルーピングと傾向把握
- 5つの視点での課題整理
- 正確性、即時性、効率性、保管・検索性、コンプライアンス
- 効果的な課題解決
- 現状の運用と背景の理解
- 小さく始めて徐々に広げる
- フィードバックを活かした調整
情報共有の改善は一朝一夕で完成するものではありません。小さな改善を積み重ね、現場の声を大切にしながら、より良い情報共有の環境を構築していきましょう。効果的な情報共有は、スタッフの負担軽減だけでなく、結果として利用者様へのサービスの質向上にもつながります。